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AIは「仕事」ではなく「学び方」を変える(前編)

  • 13 時間前
  • 読了時間: 8分

歴史は毎回「No」と答えてきた。ただし今回、少しだけ構造が違う


「これで全てが変わる」の歴史


SIS、ERP、ドットコム、クラウド、IoT、DX——振り返れば、新しいテクノロジーが登場するたびに「これに乗り遅れたら終わり」と言われてきました。実際に世の中は変わりました。しかし、煽られたほどではなかった。少なくとも「明日から全てが変わる」ということは起きませんでした。


飛び道具トラップの歴史

楠木建教授らは『逆・タイムマシン経営論』(日経BP, 2020年)の中で、これを「飛び道具トラップ」と呼びました。新しい技術の導入自体が目的化する罠。私たちはこの罠に、繰り返しはまってきました。だからこそ、AIに対しても距離を取りたくなる気持ちはよく分かります。ただ——今回、少しだけ構造が違うかもしれない体験を、私自身がしました。


コードを一行も書けない私が、自分の道具を作った


ここで「でもAIは違います!」と力説するつもりはありません。それをやった瞬間に、まさに「飛び道具トラップ」にはまることになります。ただ、一つだけ小さな体験を共有させてください。


私はコンサルタントとしてのキャリアを通じて、戦略策定、業務改革、プロジェクトマネジメントに携わってきました。コードは書けません。読めません。理系ですらありません。

そんな私が、AIコーディングツールを使って自分専用のニュース情報収集ツールを作ってみました。自分が追いかけている特定のテーマに絞って、グローバルのニュースソースから情報を自動収集し、毎朝整理された状態で手元に届く仕組みです。稚拙ではあります。ただ、動くものができた。コードを一行も書かずに


これは、過去のどのテクノロジーブームでも起きなかったことです。インターネットが来ても、クラウドが来ても、RPAが来ても、非エンジニアの私が「自分の道具を自分で作る」という体験はこれまでありませんでした。


この体験そのものは小さなものです。しかし、この小ささにこそ意味があると感じています。大げさな未来予測ではなく、一人の非エンジニアが実際に手を動かして得た体感だからです。


それでも、AIは「魔法の杖」ではなかった


その体験と同時に痛感したこともあります。最初は軽い気持ちでプロンプトを打ち込んで作らせたのですが、バグだらけでした。結局、何度もやり取りを繰り返し、そもそも何を作りたいのかというグランドデザインから練り直し、詳細設計にまで踏み込んでプロンプトを整理し直す必要がありました。


AIに自然言語で指示を出せるようになったとしても、「何を作りたいのか」「誰がどう使うのか」「どういう構造であるべきか」を考える力がなければ、使い物にならないものが出来上がります。これは、コンサルティングの仕事でAIを壁打ち相手として活用するときにも全く同じことを感じます。AIが「答えらしきもの」を出してくる。一見もっともらしい。しかし、そこで問われるのは、そのロジックは本当に筋が通っているのか、前提に見落としはないか、もっと良い切り口はないかを批判的に見極める力です。


AIの出力を鵜呑みにしてしまえば、自分では背景を説明できない成果物が出来上がります。新たな観点を加えることも、全てを解体して再構築することもできません。つまり、AIは使い手の能力以上のものは基本的に出力しません。これが、私がAIを使う中で得た最も重要な気づきです。


「代替」ではなく「増幅」——AIは「差異を均す装置」


スタンフォード大学のErik Brynjolfsson教授は、論文 "The Turing Trap"(Dedalus, 2022年)の中で、AIの発展方向には「人間の代替(automation)」と「人間の補完(augmentation)」の二つがあり、前者に過度に傾くことの危険性を指摘しています。


この視点は、AIとの付き合い方を考える上で重要な補助線を与えてくれます。考える力がある人のアウトプットは飛躍的に向上し、そうでない場合はAIの出力に流されるだけになる。つまり、AIは知識労働者の間の格差を広げる方向に作用する可能性が高いのです。


「AIで仕事がなくなる」という議論は、この意味で粗すぎます。正確に言えば、「考えない仕事」がなくなるのだと思います。定型的な情報の集約や整形、指示通りのアウトプットを正確に出すだけの作業は確かにAIが吸収していくでしょう。しかし、「何を考えるべきか」を設定し、AIの出力を批判的に吟味し、最終的な判断を下す仕事はむしろ重要性を増していきます。


ここでもう一歩、踏み込んで考えてみたいと思います。文化人類学者のGregory Batesonは、情報の最小単位を「差異を生む差異(a difference that makes a difference)」と定義しました("Steps to an Ecology of Mind" 1972年)。世の中には無数の差異がありますが、そのすべてが意味を持つわけではない。あるシステムに対して実際に変化を引き起こす差異——それだけが「情報」として価値を持つ、という考え方です。


この視点からAIを見ると、興味深いことに気づきます。現在のAI(大規模言語モデル)の仕組みは、本質的に「大量のデータから統計的に最も確率の高い次の出力を予測する」ものです。つまり、世の中にある知識の最大公約数、いわば「平均」を高速に算出する装置です。だからこそ出力は「もっともらしい」し、だからこそ「誰が使っても似たようなもの」が出てくる。AIの出力が均質化するのは、バグではなく仕組みそのものです。言い換えれば、AIは「差異を均す装置」であって「差異を生む装置」ではありません


だとすれば、AI時代に本当に価値を持つのは何か。それは、AIの平均的な出力の上に自分だけの「差異」を乗せられる力だと思います。自分固有の事業経験、業界への深い理解、長年の試行錯誤で培ってきた審美眼、ときには直感。そうした個別性・固有性こそが、AIの出力を「差異を生まない情報」から「差異を生む情報」に変える。AIを使いこなすとは、AIの出す「平均」を受け取ることではなく、その上に自分だけの「差異」を刻むことなのだと考えています。


ほとんどの企業は、まだスタートラインにいる


先日、大企業に勤める友人と話す機会がありました。AIの活用状況を聞いてみると、「まだどう活用するかを検討している段階」とのこと。正直驚きました。しかし、周囲に聞いてみるとこれは決して珍しい話ではありませんでした。メディアを見ていると「AIで出遅れたら終わり」という論調ばかりですが、現実には大半の企業がまだ検討段階——あるいは検討すらこれからという段階にあるようです。この現実を、私はむしろポジティブに捉えています。ほとんどの企業がまだスタートラインにいるということは、今から小さく始めればそれだけで一歩先に立てるということです。


創造性の研究で知られるDean Keith Simontonは、「Equal-Odds Rule(等確率の法則)」を提唱しています。傑作を生み出す確率はキャリアのどの時点でもほぼ一定で、総アウトプット量に比例する——つまり打席に多く立つ人がヒットを多く打つ、という法則です。AIの活用もまったく同じです。座学やセミナーで「AIの可能性」を聞いても、打席に立ったことにはなりません。お勧めしたいのは、まずあなた自身が「最初の実験台」になることです。社長でも、部長でも、課長でも。立場は関係ありません。来週の会議資料を一つAIと一緒に作ってみる。競合の動向を調べるときにAIに壁打ち相手になってもらう。


やってみれば、「これは便利だ」と思う瞬間と、「ここは全然ダメだ」と感じる瞬間の両方を体験できます。その両方を体感して初めて、「自分の業務のどこにAIが効くか」という解像度の高い判断ができるようになります。これは、誰かの報告を聞くだけでは絶対に得られない判断力です。そして、その体感を持った人が組織の中に一人いるかいないかで、その後のAI活用の方向性は大きく変わります。


「考える力」は代替されない——あなたの「差異」はAI時代に重要性を増す


「AIで仕事がなくなる」のではなく、「考えない仕事」がなくなる。そして、そのことは脅威ではなく機会でもあるのではないでしょうか。長年の業務経験で培ってきた判断力、業界への深い理解、人と組織を動かしてきた経験——そうした蓄積こそが、AIの「平均」の上に乗せるべきあなただけの「差異」です。その差異はAIによって薄まるのではなく、むしろAIを活かす土台として重要性を増していくはずです。


ほとんどの企業がまだスタートラインにいます。だからこそ、今日一歩踏み出す人が明日の差をつくる。その一歩は、大きなものである必要はありません。




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  • 「大きく賭けるな、小さく始めよう」:90年代後半に起こったERPブームで「入れたはいいが使いこなせなかった」失敗を繰り返さないための、Try → Learn → Pivot / Scale アプローチの設計論

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筆者:濱浦 惇(Jun Hamaura)/ワンアイルコンサルティング株式会社 取締役

音響機器メーカーでの海外営業・商品企画を経て、大手コンサルティングファームにて戦略策定・事業変革・営業改革プロジェクトに多数従事。現職ではビジネスコンサルティング部門を率い、事業戦略とDX戦略をつなぐ構想策定フェーズの伴走を中心に、SAP S/4HANA Cloud導入プロジェクトにも携わる。


 
 
 

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