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【ERP導入ノウハウ】グローバルロールアウト:モデル拠点の決め方(スコアカード例)

  • JH
  • 12月15日
  • 読了時間: 5分

【第1部】1〜3章:テンプレート前提のロールアウトとモデル拠点の選び方


1. なぜ「順番」が成否を分けるのか?


ERPのグローバルロールアウトを推進する際に、多くのプロジェクトリーダーが悩む問いに「どの拠点から手を付けるべきか?」があります。売上規模やシステム成熟度、戦略的優先度など、表層的な要素で候補を絞ることはできますが、成功確度を高める「最適なストーリー(=順番)」を描くには、もう一歩踏み込んだ検討が必要です。


楠木健氏の『ストーリーとしての経営戦略』が示すように、戦略の鍵は「何をやるか」だけでなく、「いつ・どこで・どのように」動き出すのか──すなわち〈順番〉そのものにあります。グローバルロールアウトにおける順番は、単にスケジュールの話ではなく、関係者の納得感、テンプレートの完成度、横展開の再現性、ひいては全社変革の成否を左右します。


本稿(第1部)では、まずロールアウトの大前提となるテンプレートアプローチを整理し、次にモデル拠点を選定するためのスコアカードとマッピングの考え方を紹介します。


2. グローバルロールアウトの前提:テンプレートアプローチとは?


ERP導入は単なるシステム刷新にとどまらず、以下のような全社改革の好機と捉えられます。


  • 制度・ルール統一:全社共通KPI、承認フロー、会計ポリシーなど、グローバルで統一すべき制度・ルールの再設計

  • 業務プロセス標準化:ビジネスモデル別のエンドツーエンドプロセス(受注〜請求、購買〜支払等)の標準化

  • コード体系統合:勘定科目、取引先、品目マスタ等のコード体系/ID管理を全社で共通化


これらを各拠点で個別に改革していくのではなく、まずは「モデル拠点」でテンプレート(標準の制度・プロセス・コード体系)を構築し、そこで得られたノウハウや調整ポイントを踏まえて他拠点へ横展開することで、効率的かつ一貫性のあるロールアウトを実現します。


テンプレート構築には、現地との交渉や調整が不可避であり、トップダウンで一定の摩擦も起こり得ます。しかし、最初のテンプレートが“再利用可能な資産”になれば、その後の展開は加速度的に効率化します。結果として、低コストかつ短期間でロールアウトを完遂しやすくなる。これは、過去の支援経験から見ても、グローバルロールアウトを成功に導くうえで不可欠なストーリーだと考えています。


補足:よくあるDXプロジェクトの落とし穴


デジタルによる変革を掲げてプロジェクトを立ち上げても、実際には「現在のいけていない手順をそのままシステム化するだけ」の“なんちゃってDX”に陥るケースが少なくありません。つまり、誰かが以前に手を加えた“ぐちゃぐちゃなキャンバス”の上に、さらに描き足してしまう状態です。結果として変革の契機を失い、従来のやり方を温存することにつながってしまいます。


真に大きな変革を成し遂げるためには、まずまっさらなキャンバスにTo-Beの世界観を描き出し、最新のベストプラクティスやERP標準機能に極力寄せることが重要です。既存プロセスのままシステム化を進めると、古い慣習や例外対応ロジックを引きずり込み、結果的に“変革のチャンス”を逃しかねません。


3. モデル拠点選定スコアカードの設計とマッピング


では、モデル拠点はどういったロジックと判断基準で選ぶべきでしょうか。ここではあくまで一例として、押さえるべき評価軸(≒落としてはならない論点)と、マッピングの考え方を紹介します。


前提として、X軸に**「DX浸透度」、Y軸に「標準制度・プロセスへの準拠度」**を置き、拠点の実態を客観的に捉えます。


3.1 評価軸(6軸)とスコアリングロジック


各軸は1〜5点で評価し、以下のスコアに変換します。


  • X軸スコア = A +(D × 0.5)

  • Y軸スコア = B +(E × 0.5)

  • バブルサイズ = C −(F × 0.5)

    ※負にならないように、必要に応じて下限0でクリップします


評価軸は以下の通りです。

  • A. DX浸透度(X軸の主スコア)

    • 例:業務の70%超がERP上で実行されているか

    • 例:オペレーション結果を、システム上で即座に参照できるか(Excel加工前提ではないか)

  • B. 標準プロセス準拠度(Y軸の主スコア)

    • 例:グローバル共通ポリシーをローカルでも運用できているか

    • 例:例外を除き標準プロセスで回る割合が高いか

  • C. Buy-in(経営+現場)(バブルの基礎)

    • 例:現地トップが「必須施策」と明確に位置づけているか

    • 例:Key Userが任命され、導入後も役割を担う意思があるか

  • D. ITアダプタビリティ(Xの補正)

    • 例:ローカルITがクラウド・AIなど新たな技術の運用に向けて役割再定義できているか

    • 例:データ分析/業務改善に向けたリスキリング計画があるか

  • E. データ品質(Yの補正)

    • 例:グローバル定義のコード体系(ID管理)に準拠して運用しているか/独自運用か

    • 例:データクレンジングの手順があり、実行実績があるか

  • F. 規制・タイミング(バブル減点)

    • 例:追加法規制対応(E-invoice等)のリスクがあるか

    • 例:大型プロジェクトとのスケジュール競合があるか(外的要因でReadinessが落ちる)


3.2 拠点マッピングと候補選定の進め方


  1. スコアカード配布・回収:対象拠点に送付し、5段階で回答を依頼

  2. 二次元プロット:X軸・Y軸にプロットし、Buy-in(減点後)をバブルサイズで表現

  3. モデル拠点候補の絞り込み:右上(X・Y高)かつバブルが大きい拠点を2〜3候補に仮決定


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ここまでで、ロングリストをショートリストに落とし込むための「客観的な地図」が完成します。次回(第2部)は、この地図を「展開順序(ストーリー)」へ翻訳していきます。


 
 
 

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