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【ERP導入ノウハウ】グローバルロールアウト:結局は人(根回しと期待値設計)

  • JH
  • 1 日前
  • 読了時間: 6分

【第3部】5章:スコアでは測れない成功要因(根回し、期待値設計、関係づくり)


前回(第2部)までで、スコアカードとマッピングにより「どの拠点から、どの順番で進めるべきか」を整理しました。ここまでで、ロングリストをショートリストに落とし込み、展開順序の合理性も語れる状態になっています。


ただし、ここで終わると「正しい順番が決まったので、あとは実行するだけ」という誤解が生まれがちです。現実には、プロジェクトをやるのも人であり、導入後に業務運用を担うのも人です。つまり、合理性(スコア)を“実行可能性”に変換する工程が必要になります。


本稿(第3部)では、まさにこの「結局は人」という論点に焦点を当て、グローバルロールアウトを“動くプロジェクト”にするための要点を整理します。


5. スコアで絞っても、最後は人が動かす


スコアカードは、拠点選定を客観化し、議論を前に進めるうえで非常に有効です。一方で、スコアで絞り込めるのは「候補の合理性」までであり、“その拠点が動けるか/動きたいか”は別問題です。


特にグローバルロールアウトは、ステークホルダーが多く、文化も背景も異なります。だからこそ、プロジェクトの序盤で次のような状態に陥ると一気に失速します。


  • Kickoffで初めて本格説明をして合意を取りに行く(=合意形成の工程が後ろ倒し)

  • 「本社が決めた」「やらされている」という空気が先に立つ

  • 期待値が必要以上に上がり、後から現実とのギャップが不満に変わる

  • 立ち上げに時間をかけすぎて、改善のサイクルに入れない


逆に言えば、最初に“人の設計”を間違えなければ、完璧な条件が揃っていない拠点でも、強いモデル拠点になり得ます。


5.1 Kickoffは「合意形成の場」ではなく「合意済みで走り出す場」


よくある失敗は、Kickoffを“合意形成の場”と捉えてしまうことです。多くの場合、Kickoffは合意を取る場ではなく、合意が済んだ前提で走り出す場にするべきです。


そのために必要なのは、Kickoff前に以下の“メタ合意”を取り切っておくことです。


  • 目的の合意:なぜ今やるのか(=何を守り、何を変えるのか)

  • 範囲の合意:最初から完璧を目指さない(段階的に改善する)

  • 役割の合意:誰が意思決定し、誰が実務を担うのか

  • 期待値の合意:何ができるようになり、何は後段で改善するのか


特にグローバルでは「言った/言わない」「理解したつもり」が起きやすいため、序盤での合意形成の精度が、その後の速度を決めます。


5.2 リージョントップへの根回しは“相手のタイプ”で設計する


過去の経験上、リージョントップへのアプローチは、相手がどのタイプかによって効き方が大きく変わります。


ケースA:HQとの距離が近いトップ(トップダウンが効きやすい)

意思決定は速い一方で、現場が置いてけぼりになりやすい。

この場合は「現場の負荷」「権限」「評価」を先に整理し、“現場が安心して参加できる条件”を整えることが重要です。


ケースB:HQとの距離があるトップ(ボトムアップの丁寧さが必要)

“本社都合の押し付け”に見えた瞬間に温度感が下がる。

この場合は「自拠点にとっての意味」「自拠点のメリット」を言語化し、納得感を積み上げることが重要です。


いずれのケースでも共通するのは、「何を入れるか」より先に、“なぜ今やるのか”のストーリーを握ることです。ここが曖昧だと、要件定義フェーズで必ずブレます。


5.3 現地で顔を合わせた対話が、プロジェクトの“空気”を変える


オンライン中心で進めると、議論は合理的に進むように見えます。しかし関係性は平面的になりがちで、「本社が決めた」「やらされている」という空気が生まれると、協力は得られても主体性は出ません。


だからこそ、少なくとも以下のタイミングでは、可能な限り現地での対話を推奨します。


  • Kickoff、Steering Committeeなど、重要会議は現地参加を検討する

  • 現地のKey Userや業務責任者と個別に会い、懸念や抵抗ポイントを先に拾う

  • 非公式な会話(ランチ、コーヒーチャット)で、心理的距離を縮める


制度や資料ではなく、「この人たちとなら進められる」という信頼が、プロジェクトを前に進める最大の燃料になります。


5.4 Key Userは“兼務”が前提。だからこそ最初に報いる設計が必要


Key Userの負荷は、必ず上がります。定常業務が忙しい中でプロジェクトに時間を割く以上、最初から「参加して良かった」と思える構造を設計しておくべきです。


ここで重要なのは、インセンティブを金銭に限定しないことです。現場に刺さりやすいのは、例えば以下です。


  • プロジェクト後の役割(プロセスオーナー、CoE、改善推進者等)を明確にする

  • 評価への反映(“見える”形にする)

  • 早期に体感できる改善(Quick Win)を用意する

  • 「この経験がキャリアになる」ことを言語化する


グローバルロールアウトは、導入して終わりではなく、運用し続けて改善を回す取り組みです。運用の中核を担うKey Userを「最初から仲間にする」設計ができるかどうかが、その後の横展開の速度を左右します。


5.5 期待値を上げすぎない。“少し上回る”を積み重ねる


多くのプロジェクトがつまずくのは、技術や要件ではなく、期待値と現実のギャップです。グローバルロールアウトでは特に、関係者が多い分、期待値の伝播が増幅しやすい。


ここで大切なのは、決して人をだますことではありません。むしろ逆で、DX改革はあくまで手段であり、ERP導入は経営基盤の整備です。基盤が整って初めて打てる施策が増える以上、過剰な幻想を与えるより、


  • まずは到達可能な範囲で立ち上げる

  • その上で改善を回し、価値を積み上げる


という姿勢が、結果として最短距離になります。


人は「期待値を少しでも上回った」ときに満足し、協力が継続します。したがって、プロジェクト序盤こそ、期待値の設計=プロジェクト設計だと捉えるべきです。


5.6 MVS (Minimum Viable Scope) を前提にアジャイルで


ロールアウトが長引くほど、ステークホルダーの人数は増え、論点も増え、摩擦も増えます。だからこそ、最初から完璧を目指すよりも、


  • 速やかに

  • コンパクトに

  • 使いながら改善する(継続改善)


という進め方が有効です。


もちろん、グローバルロールアウトでは統制も必要であり、やみくもに小さく始めれば良いわけではありません。ただ、テンプレートアプローチの本質は「最初のテンプレートを資産化し、横展開の再現性を上げる」ことです。最初の一歩を遅らせるより、必要十分な範囲で早く立ち上げ、改善サイクルに入る方が、結果として品質も定着も上がりやすくなります。



Closing - まとめ:合理性(スコア)×ストーリー(順番)×実行可能性(人)


本シリーズでは、以下の流れで「グローバルロールアウトのストーリー」を整理してきました。


  • 第1部:テンプレート前提のロールアウトと、モデル拠点の選び方(スコアカード)

  • 第2部:マッピング結果から展開順序の期待効果と難度を読み解く(順番の設計)

  • 第3部:スコアでは測れない成功要因(根回し、期待値設計、関係づくり)


結局のところ、ロールアウトの設計は「正しい答えを出すこと」ではなく、正しい答えを“実行可能な形”に変換することです。スコアで合理性を担保し、順番でストーリーを描き、人の設計で実行可能性を作る。この三位一体で初めて、テンプレートアプローチは機能します。


もし今、グローバルロールアウトの“最初の一手”に悩んでいる方がいれば、本シリーズが検討の補助線になれば幸いです。



 
 
 

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